Day-1・・DAY-1・・ ############################################ ・・帝国領へ到着するなり、前方・・街の方から、帝国軍のMCが一機近づいてきた レミィは運び屋として誰からの仕事でも請け負っていた もちろん帝国だろうが、金額がよければ多少のヤバイ仕事も請け負った だが・・唯一、帝国の「色」は好きになれなかった 帝国はもちろんかなりの額を支払ってくれるお得意様である・・ だが、軍のパーソナルカラーである「黒」は好きになれない色だった 黒は彼女の人生の転機・・この年ですでに何度も経験した要所要所で、イヤな思い出しか残していない ・・その、「黒」をまとったMCがゆっくりとした歩行で、レミィのMC・・アルペリオンの隣にやってくる 『積荷とパイロット名をお願いします』 「あいあい・・・『積荷は新型のMC用CPU・モジュール・・名前はラミューズ=エアマスター』・・っと」 『・・失礼しました毎度毎度・・聞くまでもない事なのですが、規則でして』 「あー、いいのよ・・ご苦労様っ♪」 レミィは機体の上部から顔を出して、軽く手を振った あちらのパイロットも受け答えをするように、敬礼を決めてくれる ・・実際、帝国だの支配だのと言っても動いているのは上の方 下の方は「あなたの街のおまわりさん」みたいな気の良い兵士が多いのだ しかも、レミィのように知った顔なら、なおさら親身に接してくれる まぁ最も・・これが、帝国に反抗しようとする意志を削ぐ「策」でもあるのだが・・ ########################################## レミィは街に入った この地表で「街」と呼ばれているのはこの「ワークス」の街の他に4つしかない たった5つの街と、その間をつなぐ荒野・・それだけが、今の地球という星の地表世界だ 今も空の上には例のフィールドが張られている・・いるであろう「外敵」を地球と隔絶するために 高度3000M以上は決して「突破する事のできない世界」である ・・これが意味する所は、「高山」という存在の否定であり、「空を飛ぶ」という行為の否定だ 移動する事のかなわない「空」を飛ぶ技術は当の昔に失われてしまい、現在まで陸上兵器、輸送車の開発が進んだ ・・つまり5つの街を結ぶのは、荒野をひた走るレミィ達のような「運び屋」の陸路だけなのである 「おう、お帰りレミィちゃん」 「いっや~・・久しぶりねぇおっちゃん♪」 レミィはアルペリオンのカーゴを帝国基地に引き渡す前に、まず昼食を取ろうと街の喫茶店にやってきた 5つの街のどこにもこういった常連の店があるのだが、とりわけこの店は彼女のお気に入り なぜなら・・ 「う~~~~~~~~~~ん♪・・・・・やっぱここのパフェが一番おいし~~~~~~~~のよッ♪♪」 ・・顔を紅潮させて、自分の世界に陶酔している おっちゃん・・喫茶店のマスターは毎度のようにこの光景を見ているが、もちろん誉められているのだから悪い気はしない 「えへへ~・・ワークスまでの仕事請け負うのは、半分このためなのっ♪」 「そ、そうかい・・」 酔っぱらいのようにその辺の関係ない客に話を振るレミィ 「もしかしてあたしぃ、ここでウェイトレスでもして働いた方がいいかしらん?」 「・・パフェのためだけにそこまでしなくても・・」 「だってぇ、あたしはゴハンよりデザートを重視するんだもん♪・・やっぱり後味が重要なのよ、重要!」 運び屋の集まる喫茶店ではあるが、そこにいた「いかにも運び屋」な筋肉質の男達よりもちょこんとしたレミィの方がテンション高だったりする 彼女はそうやって一人ハイでパフェを堪能しながら、TVのニュースを視界の端に見ていた ・・帝国総統:「ライゼル=デュランダル」陛下・・ テロップにはそう表記され、ニュースキャスターはいつものように彼の近況と、現在の財政状況などを報告する レミィにはどうでもいい情報ばかりで、いつも見てはいない・・この部分は、ただの賑やかし程度にしか感じていないのだ ・・その後の一般情報は、見逃すわけにはいかなかったが 「・・以上のように、反乱軍の本拠地捜索は今も続いています・・」 ・・フン・・反乱なんてしちゃってどーすんのよ?・・別にいーじゃないの、みんなこうして平和に暮らしてるんだから・・ レミィには、「反乱軍」という言葉がとてもうざったく感じられた 運び屋の仕事をしていていつも遭遇する「野盗」の一団、その一部は反乱軍が関係しているという ・・商売の邪魔と関係している以上、彼女がそれに好感を持つワケがない 生きていくために必要なのは、何よりも「糧」だ ・・「運び、稼ぎ、食べる」 三原則を元に生きるのが運び屋、他にはこういったひとときの時間が一番の娯楽になっている 「ごちそうさま、じゃ~ね~♪」 「おいおい・・今日はずいぶんとお釣りが多いじゃないか?」 「いいのよ、イチゴ三個もおまけしてくれたし♪」 レミィは定価より2割も多い金額をテーブルに置いて、ちゃちゃっとアルペリオンまで戻っていった ########################################## ・・街とは言っても、線で区切られたいくつかのブロックで、それぞれ生活する環境が違ってくる 世界に5つしかない街、だが「街」という響きからくる単純な規模ではなく、むしろ「都市」と表現していいくらいの広さがある それでも街と表現されるのは、帝国軍施設がそれなりの規模でその大半を占めているからである 「・・ん?」 基地の外壁を横切り、エリアの入口へ向かう時だった かなり高く作られ、MCの高さである20メートルほどもある壁 その上に、仮面を付けた男が立っていた 「・・?」 レミィは片隅に記憶していた 仮面を付けた者は上層部の中で6人、それは帝国のトップである大総統「ライゼル」に認められた5人と、ライゼル本人である その男は半分が白の無地、半分は黒地に笑ったような口の模様がついた仮面をしていた 血のように赤いマントを羽織っていて、それこそ大総統の配下として、何人もの反逆者を葬ってきた・・ そんなイヤなイメージのある、不気味な男だった (・・うっわ~・・・悪趣味ィ~・・) レミィは頬に一筋の汗を流して、「それ」を呆れた顔で見る 男は仮面の下で何を考えているか定かではないが・・・始終レミィを見ているような仕草だった 「・・・・」 (・・もしかしてあたしのファンとか?(笑)ヤっダなぁ、あーいうのに好かれると後が怖いのよね~・・) 冗談半分に笑って、彼女は基地の奥へ入っていった ・・・その間も男はずっと、アルペリオンをじっと見続けていた ########################################## 搬入・受け渡し作業はちゃちゃっと終わり、仕事を終えたレミィはあの喫茶店のある街のブロックへ戻っていた また食べて行こうかと迷っている時・・アルペリオンから降りた直後、レミィは「それ」を凝視する事になる ・・「男の死体」だ・・・それも、行き倒れらしく、砂埃にまみれている 「・・可哀想に・・」 両手を合わせて合掌のポーズをとるレミィ 「って・・こんな街の中で行き倒れになるワケあるかっ!!起きなさいアンタ!!」 うつぶせに倒れていた男をひっくり返すと、彼女は襟元を掴んでがくがくと揺さぶった しまいには頬に平手までかまして、怒っているかのように彼を起こそうとする 「う・・・」 男が目を覚ました ・・やっぱり、寝てただけか・・ ふん、と鼻息も荒く、レミィは男を睨む 「アンタねぇ、寝るならベッドで寝なさい!あたしが起こさなかったら色々盗まれても殺されても文句言えない所だったのよ!?」 「・・すみません」 「反省しなくていいッ!!・・ほら、とっとと行きなさいよ」 しっしっ・・と手で指示するレミィだが、男はホコリを払いながら言った 「すみませんが、道がわからないんです」 唐突だがそのまま、彼の状況が全てわかる一言だった 「・・あのね~・・・もしかして初めてこの街に来たの?」 「はい」 男はにこっ・・と笑った 背は倒れていた時には気付かなかったが、かなり高くて「190超」といったところか 今はボサボサだが整えていたであろう緑色の髪に、優しい微笑みと、たった今鼻の頭にかけなおした小さな読書鏡 ・・街中で迷って行き倒れるような男には見えないくらい・・・気品に溢れていた 「・・お金持ちのボンボンか何か?・・」 「いえいえ・・実は私、ちょっとした目的で「あるもの」を探していたのですが」 「あるもの?・・何よ、それ」 レミィは「はっ」として我に返る 「な、なんであたしが行き倒れのヘンなデカイ男の言う事聞いてるのよ!?・・さぁ、次の仕事に行かないと・・」 「ご勇名は聞き及んでいますよ「レミィさん」・・・でしょう?」 「・・・そうよ、あたしはレミィ・・本名はラミューズ=エアマスターよ」 (・・ほほぅ、名も無きパンピーがあたしの名を知っているとは・・) レミィは無意味に男を怪しんでみた ・・などとは言っても結局こいつ・・「ただのデカイ男」にしか見えない・・ 「・・とりあえず聞いてあげるわ、あんたの探し物って何?」 男は小さくかがむと、レミィにこそこそと耳打ちした (実は) (何よ) (・・今日ここに運び込まれたという、最新鋭のCPUとモジュールの手がかりを・・) (はぁ?) 彼女は数回まばたきを繰り返し、状況が飲み込めない様子でいた 「あ・・あんたまさか反乱軍とかそーいう類の・・・っむぅぅっぅっっ!?」 男は急いでレミィの口をふさぐとそのまま抱きかかえ、素早く路地裏に突っ込んでいった ########################################## 「・・な・・何すんのよっ!?いきなり誘拐!?」 「ちがいますよ・・大きな声で言われては困る話なんですから(汗)」 レミィは先ほどのニュースを思い出して、反乱軍というものの現状を認識する 「・・で、その反乱軍のメンバー様?・・・あなたはどうしてあたしにそんな話を?」 「あなた程の運び屋なら、何か情報を知っているのではないかと・・」 「ほう、あたしが他言したらどうするつもりだったのよ?」 「運び屋とは信頼が命です、そんな事は死んでもしない人達ですよ」 「・・・・・」 レミィは何となく、この男が信用に足りそうな人物に見えてきた 毎度のように疑われる帝国との仕事のやりとり、それとは違い、半分盲信であるかのように運び屋の事を語る男 ・・ま、結局「仕事を誉められたみたいで嬉しかった」という子供っぽい理由なのだが 「・・そのパーツなら、あたしがさっき帝国軍施設に運び込んだトコよ」 「と、すると・・・やはり敷地内に忍び込むしかありませんね」 ぶつぶつ言って男が出した結論は、レミィをぽかんとさせた 「・・いい度胸してるわねェ・・・帝国相手に一人でスパイ??」 「反乱軍・・「ネレイド」は人手不足なんですよ」 ネレイド・・確か神話の冥王の名がそんな感じだったか 反乱軍という単語は耳にするが、そういう名前があったとは知らなかった 「・・で、いい加減名乗りなさいよアンタぁ・・・あたしだけ名前がワレてるなんて納得いかないし、話しづらいわよ」 「私ですか」 男は小さな眼鏡をつい・・と動かして、一瞬の思慮の後答えた 「キール=へイム=レガート・・・・一応、キールが名前になります」 「キールね、はいはい・・じゃ、潜入がんばってね~」 聞くだけ聞いてレミィは表通りの方へすたすたと歩いていってしまう ・・キールはしばし、呆然と立ちつくしていた ########################################## ・・数分後、さっきの喫茶店にレミィの姿があった 「・・う~~ん・・・ほどよい甘さ~♪」 やはり、パフェを食べている(汗) ・・おっちゃんも皆も、平和に過ごしていたのだが・・ そこへ、一人の男が現れた 「探しましたよ~・・どうして放って行っちゃうんですかレミィ・・さ・・?」 見慣れない男がレミィに軽々しく話しかけてきたので、運び屋連中は一斉に彼を睨みつける 「・・・ん。」 おずおずと引っ込んでしまう男・・・と言うより、190超のデカイ男キール。 レミィはパフェの残りを食べかけていたスプーンを置き、つかつかと外に歩いていく 「あんた・・・何しに来たの?」 「ええ・・やはり、レミィさんに少しでも手助け頂けないかと・・・」 「あたしがそんな事したら信用問題よ!?・・ったく!しかもこーいう事女の子に頼むワケ?」 「一番と噂されているのはレミィさんです。」 「だ・か・ら・ぁ!!・・・その一番のあたしが、どーして反乱軍なんてのに協力しなきゃいけないワケよ!?」 一番という言葉が嬉しかったのか、ちょっとだけ照れくさそうに怒鳴るレミィ ・・キールはぽりぽりと頬をかいて・・・ 「・・じゃあ、せめて施設の間取りだけでも」 ごがすっ!!! そう言った時点で、レミィに殴り倒された(汗) 「いい加減にしてくれない!?あたしは日々の生活ってものがあるの!帝国相手に商売してるこっちの身にもなって欲しいわよ!引っかき回してくれちゃって・・」 もう一回殴りかかろうとしたレミィの手を、いつの間に立ったのかキールの手が掴んでいた 「・・ならば、自分以外の人間が虐げられようと関係ない、そうおっしゃりますか?」 「なっ・・!?」 キールは手を掴んだまま、レミィの目前に迫る 「あなた自身が満足ならば、他がどれだけ苦難に見舞われても良いと、本気でそう言えますか!?」 「な、何を・・・」 「逃げているだけです、あなたの知恵も力もくだらない日々のためにあるモノではないッ!!」 「・・・・・・」 優男っぽい外見とは裏腹に、しっかりとした信念を持っている・・ レミィは正直、たった一言・・その「信念」に打ちのめされていた 「・・あ・・すみません、つい地が出てしまいました(汗)」 (・・今の、「地」なワケ・・・?) 「今の話は私の本心であり、全てです・・」 キールは握っていた手を離すと、レミィの肩に置いて言う 「協力していただけませんか?」 微笑む彼の顔を見て、忘れかけていた思い出が少しだけ蘇った ・・そう、家族と共に暮らしていた頃の、優しい兄の笑みを・・ キールのそれは年代的にも、兄と重なって見えた 「・・わかったわよ・・」 一瞬でも兄に見えてしまったためか、顔を赤くして小さな声で答えるレミィ 「・・同じ毎日ってのも退屈してたし、あたしだって帝国が好きなワケじゃないからね」 正直な話、この毎日には満足している ・・だが、それ以上に観てみたい世界が出来た・・ 帝国のない世界、自分が生まれた時から存在していたそれが、消え失せた世界・・ それはきっとこのキールのような人間が多くいる、平和な世界というヤツなのだろう。 レミィは、静かにキールと握手を交わした |